週末に訪れた海沿いの街。温暖な気候と、眼下に広がる青い海、そして山肌を埋め尽くすように広がるみかん畑の段々畑の風景に、心はすっかりリフレッシュされていました。
そこで出会ったのは、半世紀以上にわたり、この地でみかん栽培を続けているベテラン農家の方。「一番美味しいみかんを見分ける秘訣」を尋ねてみたところ、教科書には載っていないような、とっておきの知恵を教えていただきました。その農家さんの話を聞けば聞くほど、これまで私が「適当」に選んでいたみかん選びが、いかに損をしていたかを知ることになったのです。
この最高の体験を皆さんと共有するため、潮風と太陽が育んだ知恵を、ここで惜しみなくお伝えします。
究極の甘さを探る!みかん選びの4大原則
スーパーや八百屋でみかんを選ぶとき、私たちはついつい「色が鮮やかで大きいもの」を選びがちです。しかし、本当に味が濃く、口の中でとろけるような甘さを持つみかんは、実はまったく違う特徴を持っているのです。農家さんが強調していた、見分けるための4つのポイントをご紹介します。
1. 形は「平べったい」のが正解
「みかんはね、横に広い方が美味いんだよ」と、農家さんは収穫籠の中から一つのみかんを取り出しました。それは私たちがよくイメージするきれいな球形ではなく、まるで軽く上から押したかのように扁平で、横幅がある形をしていました。
農家さんの話では、木の上で果実が横方向に成長する過程で、より多くの養分と甘味を蓄える傾向があるそうです。丸々と太ったみかんよりも、どこか控えめで平たい形こそが、甘さのサインだと教えてもらいました。
2. 重さが語る「濃密さ」
見た目は同じくらいの大きさなのに、片手に乗せてみると、ずっしりと重さが違う二つのみかん。農家さんは迷わず「重い方を選びなさい」と言いました。
この「重さ」は、果汁の豊富さと果肉の詰まり具合を意味しています。軽すぎるみかんは水分が飛んでしまっているか、果肉の密度が低い可能性があります。美味しいみかんは、まるで小さな水風船のように、その重さの中に濃厚な果汁をたっぷり抱え込んでいるのです。サイズ感の割に手に重みが伝わるか、じっくりと確かめてみましょう。
3. 皮の「きめ」に隠された熟成の秘密
皮の色が濃いのは当然として、農家さんが特に注目していたのは、皮の表面にあるつぶつぶ(油胞)の「きめ細かさ」でした。
「きめが細かくて、つぶつぶが密になっているみかんは、養分をしっかりもらって、完熟している証拠」とのこと。逆に、油胞が粗く、ボコボコと目立つものは、まだ味が乗り切っていないことが多いそうです。皮全体にハリがあり、つぶつぶが均一で細かいものは、果肉がしっかりと熟し、濃厚な味に仕上がっているサインなのです。
4. 軸は「細い」ものが甘さを凝縮する
そして、私が一番なるほどと感心したのが、ヘタの軸の太さに関する話でした。軸、つまりヘタの真ん中の切り口が細いみかんほど美味しいというのです。
これは、木から果実へ送られる水分量を制限することにつながります。軸が細いと、水分が過剰に送られず、その結果、果実内の糖分が濃縮されます。逆に軸が太いと、水分が多くなりすぎて味が薄まり、「大味」になりやすいとのこと。みかんを選ぶ際は、まずこのヘタの付け根をチェックする癖をつけると、甘くて濃いみかんに巡り合える確率が格段に上がるでしょう。
潮風が育む、あま~い柑橘
さらに農家さんから聞いたのは、「潮風」の存在がみかんの味を別格にするという話でした。同じ県内で同じ品種だったとしても産地によって味が全く違うらしいのです。特に海沿いの地域はみかん作りの最適解だと教えてくれました。
多くの優良産地は、海に面した急傾斜の段々畑にあります。ここで育つみかんは、太陽の光だけでなく、海面からの照り返し、そして畑の石垣からの反射熱という「三つの太陽」を浴びて育ちます。そして何より、海から吹く潮風が運んでくる微量の塩分やミネラルが土壌に浸透し、ただの甘さではない、コクと深みのある味わいを生み出すのです。
また、水はけの良い急斜面は、みかんに適度な水分ストレスを与えます。潮風によるミネラルと、水はけによる乾燥という二重のストレスが、みかんに「もっと甘くなろう」という力を与え、糖分を濃縮させるのです。
この海と太陽と、そして農家さんの情熱が詰まったみかん畑を巡り、私は「みかん」という果物が、これほどまでに奥深い生育環境によって味が左右されるものだと再認識しました。
これからは、単に「みかん」として買うのではなく、農家さんから教わった4つのチェックポイントと、潮風の物語を思い浮かべながら、最高の逸品を選びたいと思います。皆さんもぜひ、これらの知恵を活かして、舌の上でとろけるような甘く濃厚なみかんに出会ってください。その一口が、きっと心を満たしてくれるはずです。


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