昔、実家でよく「バナナオレ」や「イチゴオレ」を作って飲んでいました。果物と氷、それに牛乳をミキサーに放り込んで、あの「ガーッ」という激しい音を聞きながら出来上がりを待つ時間。完成したグラスの底には、少しだけ砕ききれなかった氷の粒が残っていて、それをスプーンですくって食べるのがまた格別だったことを覚えています。
ところが、最近になってまた自分であの味を再現しようと思い立ち、家電量販店やネットショップを覗いてみたところ、猛烈な混乱に襲われました。「なんじゃこりゃ~?」
並んでいるのは「ブレンダー」だったり「スムージーメーカー」だったり、はたまた「ジューサー」だったり。
「これはミキサーと同じなの?違うもの?どれを買えばバナナオレ作れるの???」
今回は、このキッチン家電業界で起きている「名称のややこしさ」について、少し掘り下げて考えてみました。
言葉の定義とメーカーの思惑
まず驚いたのが、私たちが慣れ親しんだ「ミキサー」という言葉自体が、実は和製英語に近い扱いだということです。英語圏でミキサーといえば、ケーキの生地を混ぜる「泡立て器」や「スタンドミキサー」を指すのが一般的。液体と果物を混ぜるあの機械は、海外では「ブレンダー」と呼ぶのが正解なのです。
近年、日本のメーカーも海外市場を意識したり、単純に「ブレンダー」という響きの方が新しくてオシャレだというイメージ戦略をとったりしたことで、国内の棚からも「ミキサー」の文字が消え始めました。
つまり、基本的にはミキサーとブレンダーは同じものを指しています。しかし、ここからがややこしい。メーカーによっては「氷が砕けるほどハイパワーな据え置き型」をミキサーと呼び、「柔らかいものを潰す程度」のものをブレンダーと呼ぶなど、独自の基準で使い分けている場合があるからです。
そこにさらに「スムージーメーカー」や「ボトルブレンダー」といった、用途を限定したサブブランド名が加わります。カバーをそのままボトルとして使用できるからボトルブレンダー。スムージーに適しているからスムージーメーカー。中身はほとんど同じ「回転する刃がついた機械」なのですが、ライフスタイルに合わせた名前が次々と発明されているわけです。
フードプロセッサーとチョッパーの境界線
次に混乱を招くのが「フードプロセッサー」と「チョッパー」です。これらは本来、飲み物を作るためのものではなく、料理の下ごしらえに使う道具です。
ミキサーが「液体と一緒に高速でかき混ぜる」のに対し、フードプロセッサーは「鋭い刃で刻む・こねる」ことを目的としています。しかし最近では、アタッチメントを交換するだけでどちらの機能もこなせる「マルチブレンダー」のような製品が主流になってきました。
「1台で何役もこなせます」という多機能化が進んだ結果、消費者は「これは結局どっちの名前で呼べばいいの?」という状況に陥っています。さらに、これの小型版として「フードチョッパー」という名前も登場し、みじん切り専用なのかバナナオレも作れるのか、見た目だけでは判断がつかない商品も増えています。
独自進化を遂げたミルサーとジューサー
そして、日本で忘れてはならないのが「ミルサー」の存在です。これは岩谷産業の登録商標なのですが、あまりに普及したために一般名詞のように使われています。乾燥した出汁雑魚を粉末にしたり、ふりかけを作ったりする「粉砕」の能力に特化していますが、少量のジュースなら作れてしまう。そのため、コンパクトなミキサーを探している人がミルサーにたどり着くことも珍しくありません。
一方で、最も注意が必要なのが「ジューサー」との違いです。オシャレな雑誌で「ジューサーで健康的な朝食を」と紹介されているのを見て、バナナオレを作ろうとジューサーを買ってしまうと大変なことになります。
ジューサーは本来、果物の繊維質と水分を分離して、サラサラの果汁だけを取り出す機械です。ドロッとしたあのバナナオレの食感は、繊維も丸ごと粉砕するミキサー(ブレンダー)でなければ出せません。ジューサーにバナナを入れると、ほとんどが「絞りかす」として排出されてしまい、切ない気持ちになること請け合いです。
海外の風と日本の事情、そして進化
整理してみると、この名称の混沌は、いくつかの要素が複雑に絡み合って生まれていることがわかります。
- 日本独自の呼び方(ミキサー)と世界基準(ブレンダー)の混在
- 特定のメーカーがヒットさせた名称(ミルサー)の定着
- 多機能化による道具の境界線の消滅
- 商品を新しく見せたいメーカー側のマーケティング的な都合
最近では、さらにここに「スープメーカー」や、真空状態で攪拌して酸化を防ぐ「真空ミキサー」といった新ジャンルも加わっています。温かいポタージュまで作れるようになると、もはやそれは調理器具なのか、飲み物を作る機械なのか、分類すること自体に意味がなくなってきているのかもしれません。
あの頃の味を求めて
今回調べてみた感想は「なんてこったい」の一言に尽きます。ミキサー界隈のこのややこしさを解決するのは不可能な状態ということがわかりました。
現代のキッチン家電選びは、かつてのように「ミキサーをください」の一言で済むほど単純ではなくなっているようです。
それでも、私が求めているのは、昔飲んだドロッとした甘いバナナオレの味です。
もし今、新しく機械を新調しようと思っているなら、カタログのオシャレな名称に惑わされすぎないことが大切です。まずは自身の「使用目的に合致しているのか?」という一点を確認すること。そうすれば、令和のブレンダーという名の機械を使っても、あの昭和や平成の懐かしいバナナオレに再会することができるはずです。


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